2度と行けない場所

 もう十数年前の話になる。僕はちょっとあることで思い悩んでいて、じっとしていられない状態だった。仕事から帰り、家についても居ても立っても居られない状態で、真夜中車を走らせていた。ある時期、ほぼ毎日そんな感じだった。
 どこをどう走ったかなんて覚えちゃいない。とにかく走れればどこでもよかった。今考えるとそんな上の空の状態でよく事故とか起こさなかったなと思う。真夜中の街にはほとんど誰もいなかった。時折対向車とすれ違う。何もない暗闇に車を停め、しばらくして走り出す。もちろん”イニD”みたいなことをしてたわけじゃない。きわめて安全運転…でも上の空。ふと思う。ここはどこなんだろう?
 知らないところを走るのは好きだ。今バイクで走っていてもそう思う。わざと道をそれ、この道はどこに続いているんだろうとか思う。意外に知っている道に出たりして、
 ”あぁ、ここにつながっていたんだ。”
 と、新たな道を開拓する楽しさがある。もちろん迷ってしまうこともある。でもあの頃は迷ってもよかった。車の中は僕一人。誰にも迷惑をかけちゃいない。闇夜の中を車でひたすら走り続ける。
 夜の幹線道路はとても魅力的だ。明かりがこうこうと道を照らし、両脇の様々なお店が楽しげに見える。通りゆく他の車を見て、
 ”あの車たちはどこに行くんだろう。”
 と、けっこう気になったりする。
 地元は走りなれているので、隣町に行ったり、会社のあるところに行ったりしていた。もう何度行ったかしれない。次第にそういう道にも慣れ始めてきた。この道を行けばあそこに出るとかがわかってくる。
 車の中で何を考えていたのか?あえてこの場では書かないでおくが、だれしも思い悩むことだ、と思う。僕は自分がそんな感情に流されるなんて、これっぽっちも思っていなかったのだ。だが人というのは、孤独に耐えられない生き物なのかもしれない。
 
 そんなこんなで、ある夜も車を走らせていた。隣町といえど、もはや勝手の知る道だ。何度も通った道だった。そこはある駅の近辺だったと思う。珍しく渋滞していた。渋滞しているってことはちょっと時間的に早かったかな?と思った。仕方ないのである交差点で右折した。
 すると、今まで見たことのない情景が目に入ってきた。けっこう急な下り坂なのだが、眼下に星のように街の明かりが広がっていたのだ。広々と、まるで果てしなく続いているかのような街の明かり。
 ”ここにこんな場所あったっけ?”
 感激した。こんなきれいな夜景は見たことがなかった。まるで高い丘の上から夜の街並みを見ている感じ。なんてすごい場所を発見したんだろう。これはぜひ毎晩のコースに入れておかないと。しかしここにこんな急な坂道ってあったっけ?

 ところが、あの時以後、その情景に巡り合うことはなかった。同じようなコースで何度走っても、あの場所にたどり着けなかった。グーグルマップで調べても、そのような場所は見つからなかった。もしかしたら調べ方がいけないのかも知れない。角を曲がりそこなったか?いろいろと、何か勘違いをしているのか?
 だがあのきれいな夜景は本物だったし、いまだに記憶に残っている。そしてあれから10年以上たってもあの場所に行きつけないのも本当だ。
 またあの場所に行ってみたいな。

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